2012年4月20日金曜日

斉藤動物病院


  食べてはいけないものを食べたとき VT講演ファイル

1.   タイトル  食べてはいけないものを食べた時!

If you find out your companion animal ingested something wrong.... 

2.   講演者名  日本臨床獣医学フォーラム 神奈川県開業 斉藤邦史

3.   講演の目的 1)犬や猫が食べてはいけないものを紹介

               2)食べてはいけないものを食べた時の対処法を紹介

4.キーポイント 1)近年,毒性が確認されたキシリトールやブドウの紹介

        2)腎毒性,肝毒性のある物質

        3)異物を飲みこんだ際にできること

5.クライアント指導の要点

        1)毒性のある物質を一覧にして院内に掲示またはパンフ 

        レットを作製し配布する

        2)いつ,何を,どれくらい食べたかを明確に聞く

       3)食べない様にするための指導

7.キーワード 誤食,誤飲,腎毒性,肝毒性,中毒,異物,有毒植物

 

はじめに

 

 散歩中に釣り針を飲み込んだ! ジャーキーを食べた直後に口から泡がどんどん出てきて具合悪そう! ハンバーグを食べた3日後から真っ赤な尿をする! レーズン入りのパンが大好き! など犬や猫が異物を食べてしまったり,体に危険な物質を飲み込んだりすることは日常多く発生します.本講演では,犬や猫が食べやすい異物を紹介するとともに,食べさせないコツ,そして犬や猫に毒性が認められている物質の一部を紹介します.

 

犬や猫がよく飲み込む異物

 

 針(釣針,ルアー,裁縫針など)

 スーパーボール

 串(おでん,焼き鳥)

 爪楊枝

 糸(毛糸,ハムを巻いている糸)

 石


いびきの写真

 ビニール袋(特にパンの包装など臭いなどがついているもの)

 手袋

 種(桃,梅,プラムなど)

 コルク

 ペットボトルのフタ

 ストッキング

 ティッシュペーパー

 石鹸

 消しゴム

 骨

 電池

 オモチャ類

   など

食べ物として市販されているがトラブルの多いもの

 

 トウモロコシを丸ごと食べて芯が消化管閉塞する

 ジャーキーが食道に閉塞する

 犬用のガム

 すじ肉

 ブタの耳

 蹄(ひづめ)

   など

家の中にある危険な物質

 

 酸やアルカリ

 洗剤

 漂白剤

 ホウ酸

  d-リモネン(柑橘類の果肉)

 接着剤

 肥料

 農薬類(殺虫剤,殺鼠剤,除草剤など)

 ナフタレン

 塗料

 テレビン(一部の薬剤に混合されている)

 薬物(風邪薬など薬局で市販されているものでも犬猫に悪いものがある)

 一酸化炭素

 ヘプタン(防水用スプレーに混合されている)

 煙または煙に含まれる物質

 エチレングリコール(車用の凍結剤や保冷剤に含まれる)

   など

腎臓に毒性のあるもの

 

 ユリ

 オクラトキシン(小麦,ビーナッツなどに発生するカビが産生する毒素)

 シトリニン(オクラトキシンと同じ)

 ハブの毒

 ヒ素

 水銀

 エチレングリコール(不凍液)

 石炭酸(消毒薬)

 ブドウ(レーズン)

 マツ油(家庭用のクリーナに含まれる)

 非ステロイド系抗炎症剤や抗癌剤など薬物

   など

 

肝臓に毒性のあるもの

 

 サゴヤシ(熱帯地方に生息する観葉植物)


極端な自由な嘔吐

 アフラトキシン(ピーナッツなどに発生するカビが産生する毒素)

 アセトアミノフェン(風邪薬などの成分)

 ヒ素など駆虫薬

 ケトコナゾール(抗真菌剤),非ステロイド系抗炎症剤などの薬物

 銅

 鉄

 キシリトール(人間には歯にいいと市販されているガム)

   など

 

その他

 

 タマネギとニンニク(溶血)

 乳製品(チーズなどのカビは神経症状)

 コーヒーやカフェイン類(心停止や呼吸停止,嘔吐,痙攣,食欲不振など)

 一種のキノコ(毒キノコ以外でもマッシュルームなどに発生するカビが毒素産生)

 アボカド(嘔吐,下痢,死亡,ウサギの乳腺炎など)

 チョコレート(コーヒーやカフェインと同じ)

 アルコール(沈鬱,胃腸障害)

 鉛(遮光カーテン要注意)

 腐敗物

   など

 

有毒植物として代表的なもの

 

 アントラキノン

  アロエ,桂皮センナなどに含まれる

  腸蠕動刺激や下痢を起こす

 

 クマリン

  アルファルファに含まれる

  抗凝固作用

 

 青酸

  サクランボやニワトコの実に含まれる

  嘔吐や下痢

 

 蓚酸と蓚酸エステル

  ホウレン草に含まれる

  尿路刺激や結石をつくる

 

 ピロリリジン

  ヒレハリソウに含まれる

  肝臓障害

 

 ベルベリン

  ヒイラギナンテン

  猫で胆汁産生刺激,嘔吐

 

 ビタミンK

  キャベツやブロッコリーに含まれる

  大量摂取で凝固障害

   

食べてはいけないものを食べさせないために

 


犬、慢性的な嘔吐

 何が犬や猫にとって悪いものかを認識しておく

 手や口のとどかないところに保管しておく

 口にくわえた際,慌てて取り出そうとするより他の興味あるものを与える

  

 

異物を飲み込んだ際の具体的な対処法

 

 いつ,何を,どれくらいの量を摂取したか聴取する

 釣り針は糸を切らずに来院していただく

  糸がある方が処置時に容易となる場合があるため

 喉に物がつまった場合は,頭を下げて胸部を軽く叩く

 喉に物が閉塞して息ができない場合は応急処置として,気管18G留置針を刺入し呼吸のルートを確保する

 むやみに催吐処置すると,食道閉塞や食道炎の原因となる場合があるので慎重な判断が必要である

 

 これ以上は医療処置となるため獣医師が適切な処置を実施することとなる.

 

獣医学的(病院での)処置法

 

 催吐剤の投与

 胃洗浄

 活性炭投与

 輸液と利尿処置

 中和剤(解毒剤)の投与

 異物確認(X線検査,超音波検査,CT検査)

 異物除去(摘出)

  用手処置,内視鏡処置,手術

 

   など

 

 催吐剤

  過酸化水素水や根シロップを経口投与するか鎮静薬(メデトミジンなど)を注射することで嘔吐を誘発し,摂取物を吐き出すことを目的とする.しかし,大きな異物を飲み込んだ場合,胃の中にある異物を催吐させることで食道に閉塞させてしまう危険性や,逆流性食道炎の危険性もある.

  

 胃洗浄

  胃の中にチューブを挿入し,水で胃の中を洗浄して摂取した物質を洗いだす.麻酔が必要な場合が多いこと,薬物摂取時など,症状が出てからでは胃で吸収が完了しており,洗浄しても効果がない場合がある.

 

 活性炭

  医療用活性炭を経口投与することで有害物質を吸着させることを目的とする.

 異物の確認


  異物を摂取したとの主訴で来院された場合,異物を確認する処置が重要である.時に,犬が押しピンを飲み込んだと来院されたが検査で押しピンは確認できす,帰宅し確認していただくと部屋の隅に押しピン転がっていたのを見つけられるケースも多々経験する.まずは,摂取した異物の確認が重要である.一般的にはX線検査が有効であるが,実はX線検査では発見できない異物の方が多い.X線検査は異物が消化管に閉塞(腸閉塞)した場合には明らかな異常所見が認められ,診断することができる.しかし,閉塞していない異物(胃の中にあるもの)では,金属,石などは確実にX線で確認できるが,ゴム,ビニール,糸,竹串などは全く判断できない.そこで,次に超音波検査を実施する.近年の超音波診断装置の画像は,詳細に観察でき,胃や腸内異物を確認することも可能である.また,線維などはバリウム造影し,半日から翌日にX線検査することで,線維にバリウムが吸着し診断できる場合がある.CT検査は単純レントゲン検査で診断できない異物も確認することができる場合がある.異物が確認できた場合は,催吐剤を用いて吐かすこ� �,内視鏡摘出,外科手術を検討する.内視鏡により摘出可能な異物は,外科的侵襲が少ないので内視鏡摘出が理想である.しかし,胃内容物がある場合は内視鏡で異物を確認することが難しくなるため,異物摂取後には食べ物を食べさせないで来院していただくことが望ましい.また,内視鏡ではスーパーボールの様な球系で表面がツルツルしたものを摘出することは非常に難しい.


さいごに

 

 異物や,毒物などを動物が摂取した場合は,速やかな処置が必要である.異物を摂取した動物は,懲りずに再び異物を摂取することも稀ではない.これらには動物行動学や行動治療学ならびに躾けの問題が関与している可能性も高く,獣医行動学の専門家の診察やアドバイスをうけていただくことも考慮する.食べてからの処置より食べさせないように指導していくこと,そして食べてはいけないものを認識しておくことは獣医師やVTにとって重要である.

 



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